四国のお遍路について

平成21年の夏に四国八十八ヶ所を歩いて遍路した経験があります。総日数は36日間でした。

札所巡りは、すでに西国,坂東,秩父の百観音を経験していました。

そこで四国の88ヶ所は是非歩いておかなければと思っていましたが,仕事をしているとそうそう長期間の休みを取ることができません。

勤務司法書士として約3年半務め,そろそろ独立しようと思い退職した際に,四国のお遍路をできるのは今しかないと思い四国へ向かいました。

これから独立開業して司法書士をしていく上でも,その前にどうしても四国は廻っておかねばならないだろうとも思っていました。

これは四国を歩くことで,絶対に今後の仕事や人生に役立つであろうとの確信みたいなものがあったことによります。 

そして現在思うことは,当時の確信にまちがいはなかったということです。

 

お遍路中の筆者
(54番延命寺にて)

私がお遍路したのは真夏の暑い時期でしたが,あの、毎日滝のように流れ落ちる汗を拭いながら、ひたすら歩き続けた36日間の経験は,私自身,たくさんの「心」「気付き」を得たような気がします。

そしてその心と気付きは,現在の仕事や日常生活の中でかけがえのないものとなっています。   

 

お遍路をする際にかぶる管笠には次のように書かれています。

迷故三界城  悟故十方空  本来無東西  何処有南北

“ 迷うが故に三界は城  悟るが故に十方は空  本来東西は無く  何処にか南北あらん ”

と読みます。

迷い(煩悩)があるからこの世の至るところに欲望の城があるが,悟ってしまえば、十方は広々として何のさまたげもない空(くう)の世界だ。

もともと空の世界に東も西もない。

どこに南や北があるというのか。

という意味です。

迷いの根源は実は己自身にあるのであって,本当の世界は,何も遮るものはなく自由自在だということでしょうか。

なお,「空」(くう)とは,般若心経にある「空」のことです。

すなわち,「かたよらない心、こだわらない心、とらわれない心、ひろく ひろく もっとひろく これが般若心経 空の心なり」(高田好胤 元薬師寺管主)ということです。

「空」の心がしっかり自分の腹に納まると,一切の苦厄から自らを解放することができるというわけです。

 

四国八十八ヶ所をお遍路する人を,親しみを込めて「お四国さん」などと呼んだりします。

そして歩き遍路をしていると,たくさんの方からお接待を受けます。

道案内はもとより,お菓子やお茶・ジュースの提供,善根宿や通夜堂などの宿泊所の存在,あるいはお金をいただいたり,車による移動の提供など,さまざまなお接待を受けます。

これらのお接待を自分自身の中でどのように捉え考えていくのかというのも,お遍路をしていくうえで大切なことなのかもしれません。

私は,お接待は絶対に断ってはいけないものだと考えていましたので,有り難くすべてお受けしていました。

なぜなら、人々がお遍路さんに「お接待をする」という動機の中に,提供者の方の「想い」が込められているからです。

つまりその想いとは,「お遍路さんをもてなすことで自らの功徳に繋がる」,あるいは「自分は廻ることができないから,私の分までお参りして拝んできて欲しい」という,ある種の信仰心にも似たものなのかも知れません。

そのような人さまの大切な想いというものを,自分自身のエゴによって無にしてはいけないのだとも思っていました。

そもそもお遍路や巡礼とは「己を捨てる」ことが大きな目的ともいえますので,大自然の摂理にしたがい,すべてを受け入れて進んでいくことが大切なのではないでしょうか。 

 

四国霊場は,徳島が「発心の道場」,高知が「修行の道場」,愛媛が「菩薩の道場」,香川が「涅槃の道場」と,人生にたとえられています。

山あり谷ありですが,私がお遍路していたときは,楽な道と険しい道があったときは,険しい道をあえて行くようにしていました。

せっかくお遍路しているわけですから,漠然とですが,そうした方が自分のためにはよいのだろうと思っていました。  

道中トマト

」「同行二人」(どうぎょうににん)といいまして,遍路や巡礼時に身につける管笠や杖なんかにこの文字が書かれていますが,これは決して一人ではないということです。

「二人」とは,一人は自分,もう一人は目には見えない「大いなる存在」ということです。

大いなる存在とは,四国遍路の場合はお大師様,西国・坂東・秩父の巡礼では観音様ということになります。

つまり「行」では,常に二人,いつでもどこでも傍でお大師様や観音様が護ってくれているということです。とても心強いです。

大いなる存在は目には見えませんからイメージしにくいですが,歩いているとその存在を肌で感じることができます。

確かに護ってくれているなと。いいもんです。

この感覚は実際に歩いた人でないとわからないのかも知れません。

車やバスで廻っていても実感できないのでしょう、たぶん。

 

四国を歩いて遍路した経験は,私にとってはかけがえないのないものだったと思います。

すべて歩くと1100km〜1200km,だいたい東京から熊本くらいの距離ですが,八十八番札所を終えたときには,杖が15㎝ほど短くなっていました。

駅やバス停,河原などでの野宿経験や,歩き遍路中の仲間との一期一会の出会いもいい思い出です。

四国は,機会があれば何度でも歩きたいと思っています。

※ 「迷故三界城 悟故十方空 本来無東西 何処有南北」の出典は、

  無着道忠禅師の著書 『小叢林清規』の中巻第五 送喪儀在家送亡 になります。

平成二十七年 卯月  

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