永平寺の参道入口

 今から770年前,福井県の山間の地 永平寺にて発祥した曹洞宗,この開祖である道元の語録をまとめた書物に『正法眼蔵随門記』(しょうほうげんぞうずいもんき)というものがあります。

これは,鎌倉時代に道元禅師が日頃しゃべった話を筆録した書物でありますが,書いてあることは,現代社会に生きる私たちにとっても非常に有益であり,

「人間いかに生きるべきか」という生きる指針ともなりうる名著といえるでしょう。

この書から伝わる道元禅師の気迫は今なお色あせることなく,一つ一つの金言は,私たちの日常において絶えることのない悩み,苦しみ,心配ごとなどを喝破し,生きる気力と,進むべき道を示してくれるものです。

そしてこの随門記は,現在の私自身の座右の書でもあります。

 

その書の一節に、愧づべくんば明眼の人を愧づべし」 とあります。

(面山本 六の一,長円寺本 一の一)

‘明眼’(みょうげん)ですが,文字どおりストレートに読むと,「明るい眼」「澄んだ眼」ということになります。

さらに一歩進めて,この文字の背後にある本質を読み取ると,「物事の道理を見通せる人」ということになりましょうか。

つまり,ストレートに解釈すれば,他人から何か批判を受けた場合は,まずその人を眼を見なさい。

そして,その眼が明るく澄んでいる人からの批判のみを自分の恥と思いなさい,ということです。

言いかえれば,批判者の眼が暗く濁っていたら,そんな批判は気にしなくてもよい,ということになります。

さらに本質的な意味で考えてみると,人からの批判を気にするなら,物事の道理を見通せる人からの批判だけを気にするべきである,ということです。

 

この格言を知って以来,私も日常生活において‘ 明眼 ’というものを意識するようになりました。

批判に限らず,とにかくその人の「眼」の奥底をじーっと見るようになりました。

澄んでいるか濁っているか。 

さらにその人の言動においても,明眼という観点からいろいろ考察することにしています。 

つまりその人の行いが,自己の存在や地位を誇示するためのものであったり,人を貶めるためであったり,あるいは,時の権力へのおもねりや自己保身であったり,つまらない世間の常識なるものや,先入観や世間体とか噂話とか,あるいは単なる損得勘定や我欲によって動いているのか否か、をです。

その結果,その人の行いがこのようなものであると思ったときは,そんな人からの批判などは取り合わないでよいということです。 逆に,

物事の道理をきちんと見通せる眼を持ち,己の損得を離れ,私利私欲を離れ,あらゆる差別を否定し,弱者の立場でものを考え,雨ニモマケズにある「自分を勘定にいれず」に生きているような明るい澄んだ眼の人の意見については,有り難い指摘として素直に受け入れ内省せよということです。

例えば,ホセ・ムヒカ元ウルグアイ大統領から何かの苦言を呈せられときは,いったん自分の行いをよく見つめ直し,元大統領の言葉をかみしめてみることです。なぜなら,この方は「明眼」といえるお方だからです。

「愧づべくんば明眼の人を愧づべし」、ズシリときます。

正法眼蔵随門記 には,この他にも道元禅師のたくさんの金言が書いてありますから,興味のある方はご一読ください。人生が変わるかもしれません。

 

最後に,永平寺の前々貫主であった宮崎奕保(みやざき えきほ)禅師の言葉です。

(1929〜2008 享年108歳にて遷化,禅師号は「黙照天心禅師」)。

自然は立派やね

わたしは日記をつけておるけれども

何月何日に花が咲いた

何月何日に虫が鳴いた

ほとんど違わない 規則正しい

そういうのが 法だ

 

法にかなったのが大自然だ

法にかなっておる

だから 自然の法則を真似て人間が暮らす

人間の欲望に従っては 迷いの世界だ

 

お釈迦様の教えといういうものは

大自然を体とし 大自然を心としたいわゆる経験者

それを仏と言うんだ

死んだ人間を仏と言うんじゃない

 

そして いわゆる大自然というものは  

かえて言うたならば 真理だ   

 

その真理を黙って実行するというのが 大自然だ 

誰に褒められるということも思わんし

これだけのことをしたら これだけの報酬がもらえるということもない

 

時が来たならば ちゃんと花が咲き

そして 褒められても 褒められんでも 

すべきことをして 黙って去っていく

そういうのが実行であり 教えであり 真理だ 

 

人に褒められたい,金が欲しい,自分を大きく見せたい,努力したことを言いたい,・・・。

とかく人間は己の欲や損得で生きてしまう凡夫ですが,そうではなくて,自然から学ばなければならないことがたくさんあるようです。

「明眼」とは,陰徳陽報,すべきことをして黙って去っていく ということのようです。

 

平成二十八年 弥生  水無月(追記)   

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