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本記事の大きな目的は、一般の方に次のことをお伝えすることにあります。それは、
FAX広告に関する違法性については「法律問題」であるため、その違法性の判断については、この規制に利害関係がない弁護士等の法律家へご相談をされ、「法律家の見解」を聞かれることを推奨します、ということです。
平成29年12月に施行された改正特定商取引法では、「承諾をしていない者に対するファクシミリ広告の提供の禁止等」という条文(第12条の5)が追加されました。
そこで、FAX広告を規制する法律は特定商取引法になりますので、特定商取引法における対象条文を検討していきます。
≪ 基本的な考え方 ≫
原則 : 通信販売をする場合の、商品若しくは特定権利の販売条件又は役務の提供条件について、相手方の承諾を得てないファクシミリ広告は禁止(特商法12条の5第1項柱書)
例外(違法とはならない場合):
①特商法12条の5第1項第1号の場合
②特商法12条の5第1項第2号の場合
③特商法12条の5第1項第3号の場合
④特商法第26条所定の適用除外ケースに該当する場合
よって、今後通信販売に関するファクシミリ広告をする場合には、その送信が、上記4つのうちのいずれかの例外に該当するケースなのかどうかをよく検討していく必要があります。
≪ 特定商取引法12条の5 とは ≫
12条の5の規定は、あくまで「通信販売」のケースを念頭においたもので、すべてのFAX送信を禁止するものではありません。
たとえば、業務として日常的に会社間で行っているFAXでのやり取りなどは通信販売とは無関係ですから、何ら法律に抵触するものではありません。
「通信販売」とは,販売業者や役務提供事業者が、郵便・電話・FAX・メール等で売買契約や役務提供契約の申込みを受けて行う商品の販売や役務の提供のことをいいます。
H29のの法律改正で禁止されるのは、通信販売のうち、商品(※1)若しくは特定権利(※2)の販売条件又は役務(※3)の提供条件についてのファクシミリ広告です。
(※1)「商品」についての指定制は廃止されましたので、原則としてすべての商品が規制の対象となります。
(※2)特定権利の内容は特商法2条4項に規定されているものです。
(※3)「役務」についての指定制は廃止されましたので、原則としてすべての役務が規制の対象となります。
但し,次の場合は法律違反とはなりません。
①相手方の請求に基づき,FAX公告をするとき(特商法12条の5第1項1号)
②契約の申込みの受理及び当該申込みの内容,契約の成立及び当該契約の内容,並びに契約の履行に係る重要な事項を通知するのに付随してFAXによる公告をするとき
(特商法12条の5第1項2号,特定商取引に関する法律施行規則11条の8第2項)
③相手方の請求に基づいて,又はその承諾を得て送信される通信文の一部に掲載することにより公告がなされるとき
(特商法12条の5第1項3号,特定商取引に関する法律施行規則11条の9)
④特定商取引法26条所定の適用除外ケースに該当する場合
※ 特定商取引法12条の5第1項2号・同3号における「主務省令」とは「特定商取引に関する法律施行規則」を指します。
≪ 受信者が「個人」「法人」「企業」「事業者」かで違いがあるのか ≫
12条5の規定は、条文上、FAXの受信者については、単にその「相手方」としており,送信の相手方(=受信者)の属性を「個人」「法人」「企業」「事業者」等で区分はしておりません。
◎ 特商法第26条1項1号の適用除外の検討
ところで、同法26条では適用除外のケースを定めています。
特定商取引法は、一般消費者の利益を保護することを重要な目的として制定されていますので(同法1条)、この目的に直接関連しない場合には法の適用が除外されます。
たとえば、営業として行う商人間どうしの「商行為」の場合は、一般に取引に慣れた者どうしが当事者となりますから、消費者保護の規定の適用は不要であり、さらに、商取引は迅速性、安定性が重視されますので、クーリング・オフなどの取引の不安定要素はできるだけ排除して、取引の円滑化や安定性を図る必要があることなどが適用除外の理由です。
そして、取引の相手が「一般消費者」かどうかの判断は、同法26条1項1号においては、
その取引が、相手方にとって「営業のため」にする、若しくは「営業として」行うものか否かで決するのであり、取引の相手が個人か否か、法人や企業か否か、事業者か否かという単純な属性で決するものではありません。
即ち、購入者が法人や事業者であっても、それが営業のため、もしくは営業として取引に至ったものでない場合は適用除外にはなりません(後記消費者庁次長(通達)、判例参照)。
たとえば、八百屋を個人事業として経営しているAさんが、訪問販売によりプライベートで健康器具を買った場合に、「事業主」でもあるAさんの購入行為が、事業主であることをもってただちにクーリングオフができないとするのは妥当ではありません。
そこで特定商取引法は、「事業主A」さんという属性で区別するのではなく、Aさんにとってその取引(購入行為)が「営業のため」「営業として」のものかどうかで判断をすることにして、同法第1条の目的にある「購入者等の利益を保護」しようとしているのです。
八百屋業と健康器具の購入は通常は営業とは関係がありませんから適用除外にはならないでしょう。
一方、お店で使うレジスターの購入の場合は「営業のため」「営業として」と認定されるケースが多いでしょうから適用除外の方向に傾くでしょう。
また、取引の相手方が「純粋な個人」の場合は営業目的ということは通常は考えにくいですから、やはり適用除外にはならないケースが多いでしょう。
注意すべきことは、ここは「個人」だからという理由ではなく、あくまで営業としての取引ではないからという立て付けになります。
個人であっても、個人事業主のように事業の一環として営業目的での取引をした場合には適用除外になり得ます。
ポイントは、相手方にとって、
(1)「営業のため」もしくは「営業として」の、
(2)「取引」に至っている
か否かであって、 個人、法人、企業、事業者等で区分するような法律構成にはなっていません。
このように、特定商取引法は「営業として」の「取引」か否かをもって「消費者性」を線引きし、営業として若しくは営業のために自己の意思によって取引を行った者については、消費者保護の対象から外しているのです。
根拠条文をきちんと読み込み、その条文の趣旨の理解に努めていけば、個人か法人かですみ分けをしていくことがいかにナンセンスなことであるかがお分かりいただけると思います。
平成29年11月1日付 消費者庁次長(通達) ← クリックで通達全文 |
特定商取引に関する法律の施行について P.46 法第26条(適用除外)関係 |
名古屋高裁 平成19年11月19日判決 |
特商法26条1項1号の趣旨は、契約の目的、内容が営業のためのものである場合には適用除外とするというのにとどまり、仮に申し込みをした者が事業者であっても、これらの者にとって、営業のためにもしくは営業として締結するものではない販売または役務の提供を特商法適用の除外事由とするものではないというべきである。 そうすると、同号が定める適用除外となるのは、申し込みをした者が事業者であり、かつ、これらの者にとって、当該契約の目的、内容が営業のためのものである場合ということになる。(判決理由の一部抜粋) |
そこで、FAX広告の観点から同法26条1項1号を見てみると、適用除外ケースとして、売買契約又は役務提供契約において「営業目的」の「取引」となる場合を除外しているのであって、受信者の属性(個人、法人、企業、事業者等)で扱いが変わる「法的な根拠」はどこにも見当たりません。
よって、あくまでFAXを受信する側が、営業のために若しくは営業として、申込みや、購入若しくは役務の提供に係る契約を締結する(した)ものでない限り、受信者の属性を問わず、26条1項1号所定の適用除外ケースにはあたらないものと解されます。
(送信者側についての事情ではありません。送信者が営業目的でFAXを流すことは当たり前のことです。)
◎ FAXDMの送受信は「取引」といえるのか
特定商取引法12条の5「承諾をしていない者に対するファクシミリ広告の提供の禁止等」における「承諾」とは、言い換えれば、受信する側の「興味の表象」や「取引の意思」を意味しているともいえるでしょう。
このように、積極的に取引をしたいと考える当事者間のやり取りに、わざわざ法が介入する必要はありません。
ですから、FAX広告の「受信」につき「承諾をしている者」との間では規制をしないことにしているのです。
特定商取引法26条1項1号の条文 (法の適用が除外される場合) |
売買契約又は役務提供契約で、第2条第1項から第3項までに規定する売買契約若しくは役務提供契約の申込みをした者が営業のために若しくは営業として締結するもの 又は 購入者若しくは役務の提供を受ける者が営業のために若しくは営業として締結するものに係る販売又は役務の提供 |
特商法26条1項1号は、上記条文の構成から、相手方にとって、その契約の目的、内容が営業のためのものであって、その申込みや契約の締結といった「取引行為」に至った場合を前提として、法の適用の除外を定めているものと解されます。
その趣旨は、自らの意思で、営業を目的として取引を行った者については、もはや「消費者」として保護をしていく必要がないからであると考えられます。
そうすると、そもそも、自分が望んでもいないFAXDMを「一方的に受信させられた」という事実だけをもって、「申込み」や「契約の締結」という行為に至っていない場合には「取引」とはいえません。
つまりそこには、受信者側の積極的な「取引の意思」が何ら介在しておらず、受信者の責めに帰すべき事由が何も存在していない以上、法26条1項1号の趣旨から考えても、適用を除外すべき根拠が見出せません。
FAXの受信者は、単にFAX機を設置していただけであって、取引をする意思はもとより、現実の取引行為の実態もないわけですから、受信者側にとっては非となる事情が何もなく、特商法による保護の対象外とする理由を説明することは困難であると考えられます。
そしてこの理は、受信側の属性が個人か法人かで結論が異なることにはならないはずです。
FAXDMを送信する側でみれば、
(1)その広告の商品や役務、特定権利が、相手方(=受信者)にとって「営業のため」若しくは「営業として」の性質を有するものなのかどうか、
また、仮にそうであったとしても、
(2)その広告に対して「申込み」や「契約の締結」に至る「取引」行為に繋がるのかどうか
については、送信時点では全くわからないわけですから、(1)かつ(2)を見込んでFAX広告を無差別一方的に流す行為については少なからずリスクがあるようにも思えます。
あくまで原則は、通信販売において相手方の承諾を得てないファクシミリ広告は禁止(特商法12条の5第1項柱書)になったということを再確認しておく必要があるでしょう。
※「消費者」の解釈については後述
≪ 世の中に流布されている「様々な情報」に対する心構え ≫
今般のFAX広告の規制に関する特定商取引法では、これに違反した場合には罰則も定められています。
大丈夫だと思ってやったら、大丈夫だと言われてやったら、実は法律違反だったということにならないよう、条文や関係法令などを丁寧に読み込み、各自きちんとした法律知識を身に付けておく必要があるでしょう。
「法律知りませんでした。」は理由にはなりません。
とりわけ、FAX送信の相手方(=受信者)が、「個人」か、「企業」「法人」「事業者」かで異なった扱いになるのかどうかについては、現在相反する考え方があるようです。
それは、今般のFAX広告規制の法律が、ある業種においては死活問題にもなってしまうため、この部分は社会的な影響が大きいからです。
平成29.12.1以降、FAXDMをはじめとするFAX広告をされる方は、すべての見解を吟味し、
どれが最も論理的で根拠明確に映ったか、
どれに一番説得力があると感じたか、
どの見解が正しいと思ったか、
等をよくよく検証され、その上で何を信じるべきか、そして最終的にFAX広告をやるのかやらないのかは、すべて自己責任となります。
大切なことは、他人が言ったことを鵜呑みにするのではなくて、自分の頭で考えてみることです。
自分を守ることができるのは自分自身に他なりません。他人は助けてはくれません。
ある解釈や主張をする場合には、それを裏付ける法的根拠が必要であり(条文や関係法令、裁判例など。但し、FAX広告規制に全く関係のない的外れの条文等は論外です。)、それがないにもかかわらず、自分に都合のいいように勝手に解釈したり、そうあって欲しいという希望的観測によって法律解釈をしていくことは避けておいたほうがよいでしょう。
いま一度、自分が思うところの解釈が、法律のどこにそれを裏付ける規定や根拠があるのかの原点に立ち返る必要があるでしょう。
行政庁一職員の見解なるものをもって、それが法律上の根拠になり得るはずがないのです(もっとも、その職員の見解自体、その信憑性についても、いつ、誰の、どのような発言なのかについてもよくご確認下さい。)。
< 「消費者」の法的解釈について >
消費者庁取引対策課では、平成29年11月、今般の特定商取引法に関して、
「平成28年改正特定商取引について」と題する資料をHP上に掲載しています。
そこには、通信販売のファクシミリ広告の送信について請求や承諾をしていない消費者に対するファクシミリ広告の送信を原則禁止(オプトイン規制)と表記されています。
この「消費者」については条文には書いていない文言ですが、特定商取引法が消費者保護を目的としている趣旨を考えれば当然のことといえます。当たり前だからわざわざ書いていないのです。
ここで大きな問題となるのは、何をもって「消費者」というのかという点です。
消費者契約法第2条第1項では、「消費者」の定義についてきちんと書かれています。
但し同項では、「この法律において」消費者とはとあり、あくまで消費者契約法という法律の枠内においての定義になります。
一方、FAX広告の規制に関する法律は特定商取引法であり、消費者契約法上の「この法律」ではないため、消費者契約法上の消費者の定義がそのまま適用されるものではありません。
この部分を混同してものを考えていると、誤った法律解釈に陥りがちなので注意が必要です。
法律家は、こういった条文上の細かい文言をきちんと気にして読んでいくのですが、一般の方はごちゃ混ぜで読んでしまうため、法律の解釈を誤るのです。
特に、FAX代行業者などが主張する法的根拠として消費者契約法2条1項を挙げているようですが、上記のとおり、これは的外れの条文に基づいた法律解釈であって、裁判では全く通用しないことでしょう。
また、行政庁一職員の見解なるものをもって、それが法律上の根拠になり得るはずがないのは前述のとおりです。
特定商取引法においての「消費者性」の判断については、過去に、26条1項1号(適用除外)に関連した上記裁判例の他にもたくさんの裁判例があります。
これは、特定商取引法では「消費者」についての明確な定義が条文にないため、過去に様々なケースにおいてこの部分が争われてきているということです。そして、
特定商取引法における「消費者」の解釈については、各事案ごとに、当事者の状況、取引形態の状況等を総合的に考慮のうえ、個別に判断されてきているのがこれまでの裁判例です。
そしてその判断基準は、上記のとおり、相手方にとって「営業のため」若しくは「営業として」の「取引」なのか否かということです。
このことは、少なくとも消費者契約法における「消費者」の定義が、そのまま特定商取引法にも適用されるものではないということを示しています。なぜなら、もしそのまま適用されるのであれば、それで解決、裁判で争う余地がないからです。
加えて、もしそのまま適用されるのであれば、上記消費者庁次長の通達も説明がつかなくなってしまいます。
ですから、「特定商取引法」における「消費者」とは何を指すのかということが問題になってくるのです。
私の所見は、特定商取引法の条文と条文の趣旨、これまでの裁判例を根拠として考えていくもので、上記記載のとおり、特定商取引法における「消費者」の法的解釈については、相手方にとって「営業のため」もしくは「営業として」 の「取引」に至っているのか否かをもって「消費者」性を判断していく、というものです。
すなわち、「営業のため」若しくは「営業として」「取引」を行う(行った)者は、もはや「消費者」として法の保護には値せず(特商法26条1項1号の適用除外)、それ以外は消費者として特定商取引法による保護を受けるということです。
もっとも、 FAXDMの送受信については、そもそも「取引」に至っている実態がありませんから、その営業性の有無を検討するまでもなく、特商法26条1項1号が適用される余地はないということです。
しかしながら、やはりこれには異なった見解、即ち、“個人は消費者であり、企業や法人は一律に消費者ではない”という見解もあるようです。この見解は、特商法26条1項1号による適用除外の帰趨が相手方の属性によって決するというものです。もっとも、この「属性」によってすみ分けをしていくという見解については、法的にどのような根拠に基づいているのかが判然としません。ただなんとなく「消費者」という言葉のイメージでとらえているようにも思えます。法律問題は、イメージでは解決できないのです。
法律の解釈というのは、条文があって、その条文が存在している趣旨があって、その趣旨に照らして結論が導かれていきます。
FAX広告規制に関する法律の解釈については、現在、上記のようにいろいろな見解があり、いったい何が本当なのか?、何を信じればよいのか?、と混乱をしている方、不安を感じている方も多いと思います。このようなことから、
FAX規制に関するの違法性の判断については、弁護士等の法律家へご相談をされることを強くお薦めします。
法律家は、法律の読み方というのをきちんと心得ているはずです。
また、規制に利害関係がありませんから、曇りのない目で法律を眺め、第三者的な立場で適切な法律解釈を行っていくことでしょう。
自分を守るためには、自分自身が正しい法律知識と見識を持つことしかありません。
その上で、今後FAX広告をされる方は、すべての見解をよく検証され、どのような見解を信じご自身の中で採用していくのかについては、ご自身の頭の中でよく考えて行動されてみてください。
広く国民の中で、「FAX広告」とは何ぞや、問題の所存は何なのか等について大いに議論が進み、少しでも世の中が良い方向へ向かっていければ、それはそれで良いことだと思います。
司法書士・特定行政書士 五十嵐 正 敏
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